【創作】B-review 投稿 「ハロー!」
創作
最近更新出来ていない本ブログですが、B-review という詩の投稿サイトに拙作「ハロー!」を投稿しています。
ハロー!
「ハロー!」は現代詩手帳8月号に投稿するために書いたものですが、原稿を持って郵便局へ急いでいたところ、雨に降られてしまいまして、封筒がびしょびしょになって投稿出来るような状態でなく、郵便局近くのコンビニで新たに印刷しようにも財布を持ってきていなくて帰って印刷しようと思ったのですが、なんか服も湿ってるし今日投稿してもイイことなんて一つもないだろうと気分を落として湿ったまま机の上に積まれていたものをもっかいどっかに送ろうと思い直していたところ、ツイッター上でB-reviewを見つめて修行でもしようということで投稿したのでした。
評価
「コメントしづらい」「ニアリーイコールみたのこれがはじめてかもしれない」「冗談に感じてしまう部分もあり」「論理的であるようでいてナンセンス」などと好評を得ました。
ぼくの詩を読んでくださった方が動画形式で批評してくださっています。ありがとうございます。
紹介
「ハロー!」はどこからきたのだろうと思ったのですが、たぶん伊藤比呂美さんと吉増剛造さんの詩集とかの影響を受けて誕生したのだと思う。ということで、おすすめを
・『続・伊藤比呂美詩集』
詩集は数多く、小説もエッセイも続々と産み出す伊藤さんですが、入門はやはり詩文庫がいいかなと。多分、この詩集を読んでいると、「よくわからん」と思って先へ行く人もいると思います。が、もう一度、飛ばしたところを読むことをおすすめします。
・『女の一生』
伊藤比呂美さんのエネルギイに触れることの出来る一冊です。すべての人が伊藤比呂美さんを読んだら、みんな少しづつ生きる為に必要な免疫がついて生きづらい人に対してやさしくなって子どもが親に叩かれる頻度が減ったり、女性に対して男性の力を主張するバカな男どもも少しは減るんじゃないかなと思うのです。
・『吉増剛造詩集』
いわゆる「吉増さんの詩」を最初に読んでしまうので、まずはこちらを。
・『裸のメモ』
吉増さんの詩を読むと、闘争心がわきます。既存のモードに対する闘争心がわきます。
おわりに
詩はいいですよね。詩が好きなので詩を書いています。
現代詩文庫は今後国宝になるよ。おすすめの詩集があったら教えてください。
海外の詩など、特に。最近読めてないんですよねえ。
【紹介:小説家】村田紗耶香
村田紗耶香
【略歴・紹介】
村田紗耶香(むらた・さやか)
1979年千葉県 生まれ
玉川大学文学部芸術文化学科卒
2003年「授乳」で第46回群像新人文学賞 小説部門・優秀作に選ばれる
2009年『ギンイロノウタ』で第31回、野間文芸新人賞受賞
2013年『しろいろの街の、その骨の体温の』で第26回三島由紀夫賞受賞
(参考『ギンイロノウタ』新潮社2008.10『コンビニ人間』文芸春愁2016.7)
作品
・授乳
著者のデビュー作。家庭教師の大学院生と高校生の女の子の物語。傷つきやすくナイーブな青年が、少女の好奇心をくすぐります。青年はその茶目っ気にさえも母性を感じたのかもしれません。
・消滅世界
この本を読んだ時、僕は21歳でした。初めて恋人になってくれた人との別れや、2度目の恋愛に胸を躍らせてる中でこの本に出合いましたが、恋愛に胸躍らせてる人にはお勧めできない一冊です。結構強烈でした。男女がセックスして子供が生まれて大人になって世界を作るのだとするのが、聖書の世界だと考えると、確かにこの『消滅世界』の中では世界は消滅していますね。
・殺人出産
「10人産めば人を一人殺してもよい」、私たちの生きる現実とは異なった現実を生きる一人の女性を主人公とした小説。一般には、ディストピア小説と呼ばれていますが「人を殺したい」という欲望は誰もが抱います。その欲望を可視化した小説、即ち世界は違えど私たちと「彼女たち」はなに一つ変わらないのかもしれません。
・地球星人
この作品の中で気に入っている個所を引用します。
「智臣くん、おかえり。どうだった?」
「追われてる。すぐにどこかに隠れないと」
震える夫から事情を聞くまえに、外から車の音がして、「ひっ」と夫が悲鳴をあげた。
(中略)
「どうしよう、由宇。智臣くんを『工場』の使者が追いかけてきた」
(中略)
「智臣! 出てこい、いるんだろう!」
由宇は目を丸くした。
(中略)
「失礼ですが、息子はいますか?」
舅はどんどん家の中に入ってきて、「智臣!」と叫びだした。
やがて、台所から夫が引き摺り出された。
「馬鹿息子が!」
(『新潮』新潮社2018.5)
参考
・村田紗耶香さんの読書歴がインタビュー形式で語られています。芥川賞を受賞される前のインタビューになりますね。
・『コンビニ人間』で芥川賞を受賞した後のインタビューです。村田さんの仕事観がうかがえて、楽しめました。
【新春・芥川賞作家インタビュー】「コンビニ人間」37歳村田沙耶香は今もコンビニで働いているのか コンビニで好きな仕事「○○」(1/5ページ) - 産経ニュース
村田紗耶香が好きな人におすすめ
「地球星人」に、「ヴィヨンの妻」の冒頭をオマージュしたワンシーンがあります。比べてみても、面白いかもしれません。
おわりに
村田紗耶香さんの小説はとても面白いですよね。ぼくが初めて読んだのは「白色の街の、その骨の体温の」でしたが、村田さんにドハマりして遡って読んでいきました。
『コンビニ人間』が芥川賞を受賞した際、この小説を「自己肯定」の話と読む人が多かったと聞きます。コンビニという、ぼくらにとって身近な空間で生きる「独身の女性」が、他者の目にぶれることなく生きている小説であると読んでいるかもしれません。が、彼女が現実を生きる上では「信頼できない語り」であるということをよく肝に銘じる必要があるかもしれません。ぼくには、「コンビニ人間」が一つの病のように思えるのです。
みなさんは、村田紗耶香さん、お好きですか?
どんなとこが好きなのか、いつか多くの人と話してみたいものですねえ~
【紹介:小説家】山下紘加
山下紘加
【略歴・紹介】
山下紘加(やました・ひろか)
1994年生まれ
東京都出身
2015年 文藝賞受賞。小説家としてデビュー
(山下紘加『ドール』河出書房新社2015.11より)
作品
・『ドール』単行本(河出書房新社2015.11)
山下紘加のデビュー作。ラブドールと秘密の愛を育む中学生を書いた小説。「女性であれば本来ならば近寄りたくない男子中学を(女性でありながら)緻密に描いている」(大意)と選考委員の一人である星野智幸にも評価された作品。
・「空 そこに私はいない」(『文藝』2016.3.秋季号)
山下紘加さんの受賞第一作です。単行本には未収録ですので、ぜひこちらの『文藝』をお買い求めください。(私、未読です。)
参考
・ インタビュー
「ドール」発表後のインタビュー記事です。
» 【前編】第52回文藝賞「ドール」山下紘加さん 受賞作は“ラブドールから出発した青春小説”
» 【後編】第52回文藝賞「ドール」山下紘加さん 受賞作は“ラブドールから出発した青春小説”
山下紘加の作品が好きな人におすすめ!
山下紘加さんは、中村文則や江國香織さん、山田詠美さんが、好きらしいです。特に、江國香織さんからは影響を受けたようです。私、江國香織さんの小説を一冊も読んだことがないので、自分が読んだことのある本の中から、何冊かピックアップしてみます!
・中村文則『土の中の子供』
・山田詠美『ベッドタイムアイズ』
山下さん本人、上の2作はノートに書き写したそうです!写経に『土の中の子供』を選ぶなんてすごいです。
「信頼できない語り」という点で、ゴーゴリの『狂人日記』を挙げさせていただきます。
引きこもりの男の子が、キジをどうにかしようと考える(とらえる・殺す・逃がす)話です。こちらも『狂人日記』と同じように、視点人物に独特のバイアスがかかっています。「信頼できない語り」だと私は考えます。
それから、山下さんは芥川龍之介も、小学校の頃から読まれていたそうです。文学だけでなく、東野圭吾さんのようなミステリー作家の作品も読まれていたらしいです。
おわりに
なぜこれほど多くの本を紹介したかというと、山下さんが私と同じ1994年生まれだからです。世代としてみたときに、阿部和重や中村文則を読んでる世代なのではないかなと思います。山田詠美さんもそうですね。なので、勝手ながらシンパシーを覚えてしまったのです。
そして、同時に激しい嫉妬も感じます。『ドール』で文藝賞を受賞した当時、21歳と推定出来ますが、同級生がこんな小説を書くなんて!と『文藝』を読んで思ったものです。
私も拙い小説を書いている身として『ドール』を読んだときに「ここまで目を逸らしたくなるよな現実を書き上げる人がいるのか」と落胆し、「もう小説なんて書くのやめようかな」と何度も考えました。
しかし、一方、我々の世代でもこれだけの作品を書いている人がいる、ということを一つの希望のように考えてもいました。
次作が発表された際には、徹底して批評してやるぞ、と意気込みながらもまたまた醜い嫉妬心を駆り立てられるだけのような気もしますね。そんな心持ちじゃいけませんが。
山下さんが、シーンを作り上げる頃には、私も小説を発表していたいものです。
【紹介:ロックバンド】ざくろ水
ざくろ水
みなさん、ざくろ水というバンドを知っていますか?
awsome city club のボーカルのatagiさんがオススメの音楽を紹介している記事を見つけたのですが、そこでざくろ水の名前を知りました。
とてもカッコいいバンドだったので、簡単に紹介させていただきたいと思います。
以下、プロフィール。
ざくろ水のプロフィール
2017年結成。ヤーチャイカのニシハラ(Gt,Vo)、キクチ(Ba)、ナカムラ(Dr)とH mountainsとしても活動しているゴガ(Gt)によるナイスな4人組。(Eggs ざくろ水のページより)
バンド名が「ヤーチャイカ」というのが素晴らしいですね。先日記事を書いた池澤夏樹さんの『スティル・ライフ』にも同名の小説が収録されていますが、元々はチェーホフの『かもめ』に登場するセリフです(原文では読んでませんが)。「わたしはかもめ」という意味のフランス語ですね。
もちろん、ざくろ水というバンド名もナイスです。「ヤーチャイカ」といった文学的なバンド名を見てしまうと、「ざくろ水」の方にも、何やら意味を見出してしまいたくなるところ。
ざくろと聞くと、神話ファンの皆さんはギリシア神話を思い浮かべるのではないでしょうか。ざくろを食べた所為で冥界に留まらなくなってはいけなくなった女神がいましたよね。半年は冥界、もう半年は地上! 女神が地上にいる間は作物がよく実るのですが、彼女が冥界に戻ってしまうと、その母親(確か豊穣の神!)が嘆き悲しんで作物が一向実らなくなるんですね~、即ちそれが冬となって、女神が地上にいる間は夏として作物はよく実るのです。
(なんの話でしょうか。)
ざくろ水「巨大な花」
ざくろ水 - 巨大な花 ZACROSUI - Huge flowers
オクターブギター、でしょうか?
サイケデリックな曲調に乗せられるハイトーンボイス。
歌詞はうまく聴き取れませんが、難しいこと言ってそうです。なにはともあれ、めちゃくちゃ格好いいんですね。メロディもころころ変わって癖になります。
上で書いたざくろと冥界のくだりともマッチする雰囲気なのではないでしょうか。
公式でアップされているのは上の一曲だけですが、これだけでも十分のインパクトです。ライブに行きたくなります。
参考
こちら、本人による楽曲の配信ページです。
ざくろ水、本人によるツイッターのアカウントですね。どうやら、HPは作っていないようで、ライブに関するお問い合わせはこちらで受け付けているようです。
チケットのご予約はこちら→https://t.co/A0Z0GnNECV
— ざくろ水 (@zacrosui) April 8, 2018
イベント出演などに関するお問合せはこちら→https://t.co/g5aSEEGOSh pic.twitter.com/DltLWBwvDX
おわりに
今のところ、都内でのみの活動しているようです。ざくろ水が活動している内に、ぜひライブに足を運びたいところ。音源が出たら買いですね。
お近くにお住まいの方はぜひライブに足をお運びください。
【紹介:小説家】大前粟生
大前粟生
【略歴・紹介】
大前粟生(おおまえ・あお)
1992年兵庫生まれ
2016年「彼女をバスタブにいれて燃やす」でGRANTA JAPAN with 早稲田文学公募プロジェクト最優秀作に選出される。
「ユキの異常な体質 または僕はどれほどお金がほしいか」で第2回ブックショートアワード受賞。「文鳥」でat home AWARD大賞受賞。
(大前粟生『回転草』書肆侃侃房2018.6より」)
【作品】
・『のけものども』惑星と口笛ブックス 2017.5(電子書籍)
『のけものども』は著者初の短編集。「惑星と口笛ブックス」は小説家の西崎憲氏が運営しているレーベルです。
(紙媒体として発売されることを期待!)
・『回転草』書肆侃侃房2018.6(単行本・紙媒体)
回転草は氏が賞を受賞した作品、代表作を中心に収録・構成されています。 ・「文鳥」 ・「彼女をバスタブにいれて燃やす」 ・「海に流れる雪の音」 (「ユキちゃんの異常な体質 または僕はどれほどお金がほしいか」改題改稿) 等々
参考
・BOOK SHORTS インタビュー(『のけものども』刊行後インタビュー)
・光村図書インタビュー(『回転草』に収録されている「わたしたちがチャンピオンだったころ」についても言及されています)
「飛ぶ教室」のご紹介 スペシャルインタビュー 大前粟生 | みつむら web magazine | 光村図書出版
大前粟生の作品がお好きな方におすすめ
・文学
大前さんの小説をお好きな方はおそらく、翻訳ものの短編・掌編小説もお好きだと思われます。上のインタビューで言及してもいますので、岸本佐和子さんの翻訳を一冊とアメリカの有名な作家の短編集を一冊ご紹介します。
・リディア・デイヴィス『ほとんど記憶のない女』
掌編が主な作品集になっております。話の筋も脈絡もない愉快でユーモアの効いた作品が多数収録されています。
・ドナルド・ヴァーセルミ『シティ・ライフ』
登場人物の語りも独白もほとんど信用できない不思議な短編集です。80年代にデビューした小説家の方にも、影響を受けた方が何人もいるかと思われます。
おわりに
大前粟生さんの作品は、話の筋というべきものがきちんとあります。が、なにも筋があれば話がすこんと頭の中に入ってくるかといえば、そんなことはありません。氏の作品に登場する人物の思考に関しても同様です。筋はありますし、ある事件に対する彼らの反応、感情の起伏に関しても筋が通っていると言えます。しかし、頭の中にすこんと入ってくるかは別なのです。筋が通っているからこそ、理解の遠く及ばないこともあるのではないでしょうか。「おやおや」の連続です。『回転草』の帯には作家の藤野可織さんのコピーが付いています。
楽しくてばかばかしくて切実な絶望で、今にも破裂しそう。読んでる私も破裂しそう。せーのでいっしょに破裂したい!
『回転草』より
「破裂」しそうだし「破裂」したいけど、破裂しないのが大前さんの作品の魅力なのかなと思った次第でありました。
次回作を楽しみに待ちましょう。
【紹介:小説家】鴻池留衣
鴻池留衣
【略歴・紹介】
1987年埼玉県生まれ
慶応義塾大学文学部中退
2016年「二人組み」で第48回新潮新人賞を受賞
東京都在住
(鴻池留衣『ナイス・エイジ』新潮社2018.1より)
作品
・『ナイス・エイジ』新潮社2018.1(単行本)
デビュー作である「二人組み」と文芸誌から女性誌まで幅広く取り上げられた「ナイス・エイジ」の2作が収録。
「二人組み」に関しては、拙稿をご用意してありますので、ついでによろしくお願いします。
「ナイス・エイジ」は未来からやってきた自分の息子と生活するAV女優の話です。真実はいずこへ、と考えさせられましたね。文芸誌掲載時も単行本発売時も、とても話題になっていましたね。
・「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」(新潮2018年9月号に掲載)
幻(架空?)のバンド「ダンチュラ・デオ」の紹介という形式で進む小説です(「紹介」の方法がミソ) 。登場人物の置かれている立場や力関係が面白いくらいコロコロと変わります。クイズゲームをする場面がありましたが、最近の文芸誌ではあまりお目にかかれない光景でケラケラと笑いながら読むことが出来ました
参考
・新潮新人賞受賞時のインタビュー(リンク切れの可能性あり)
http://www.shinchosha.co.jp/shincho/tachiyomi/20161007_3.html
・すばる2018年4月号、及びすばる2018年5月号に氏の読書日録が掲載されていました。ファンの方にはおすすめです。(この回のすばるは、全体として好評だったように思います。特に5月号)
鴻池留衣の作品が好きな人におすすめ!
・文学
氏はインタビューの中で、谷崎潤一郎、三島由紀夫、大江健三郎、ジャン=ジュネを好きな作家として挙げています。作品としては、谷崎の『春琴抄』とジュネの『花のノートルダム』がお好きなようです。個人的には、新作「ジャップ・ン・ロール・ヒーロー」を読んだときに、谷崎の「少年」を思い浮かべました。なので、ここでは「少年」を押しておきます。鴻池ファンの方には、江戸川乱歩や島田雅彦さんの小説(デビュー~『自由死刑』まで)もいいかなと思いますが、どうでしょう?
谷崎の「少年」が収録されている短編集です。
失明をしてしまった琴弾の少女とその従者の物語です。描写の密度が濃いことで有名ですね。男性の女性に対する忠誠心、複雑な恋愛が描かれています。
ジャン=ジュネ『花のノートルダム』
ジャン=ジュネは、暴力や、本来であれば汚いとされているものを美しく描写することで有名です(すみません、未読です!)
おわりに
鴻池留衣さんは、デビュー時から至るところで注目されている作家です。
ディティールに凝っていて、読む度に新しい発見や著者のたくらみを見つけることが出来るのではないかと思われます。今後の動向を見逃さないように追っていきたいところですね。
文体も、軽やかで万人受けかと思われますので、まだ読まれていない方は、ぜひとも読まれてみてください~。一作目には、「ナイス・エイジ」がおすすめです。
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【書評】池澤夏樹『スティル・ライフ』
あらすじ
染色工場で働く《僕》は同じ工場で働く佐々井と3ヵ月限定の株式投資を始める。《佐々井》の指令の下、《僕》は投資を進め、万事順調に資産は増え続ける。一定の資産を得た佐々井は荷物をまとめ《僕》の下から去っていく。《僕》の下には少なくない数の金額だけが残った。
所感
先日、教師をしている友人がこんなことを言っていた。「教育において最も重要なのは、自己肯定感を与える問を小刻みに何発も打っていくことだよ」、と。
子どもの為の小説、青春小説においてはどちらかと言うと、ダメな自分を書き手自らがさらけ出すことで、読者に「あっ、俺大丈夫じゃん!」「俺も生きてていいんだ!」と思わせる作品が多い。
例えば、『ライ麦畑でつかまえて』があまりにも有名なサリンジャーの作品群はまさにそうだし、日本だと太宰の『人間失格』や、最近でいうと、僕は重松さんの作品にそれを感じる。
少し毛色は違うけど、村上春樹の初期作品もそうではないでしょうか。往々にして、春樹作品においてはだらしのない男が多い。それでいて、何となく雰囲気が恰好良くて女の子にもてるのだから「くだらんファンタジーだ」(島田雅彦)なんて言われても仕方が無いのかもしれない(僕は好きです)。
……。
それで、今回紹介する『ステイル・ライフ』はまさに、その両者(友人の主張と青春小説の常)の中間に位置する小説なんじゃないかと思ったんですね。
染色工場で働く≪僕≫はフリーターなんだけど、全く悲観的な感情を自分に抱いてない。初出が1988年(まだバブル)ということもあってか、フリーターである、という要素に全くマイナスのイメージを感じさせない。例えば現代では、フリーターと聞くと「貧困」「漫画喫茶難民」と、まあ良いイメージを抱く人間もいないだろうけど、ここでは「貧困」の「ひ」の字も出てこないし、フリーターであることを咎める人物だって一人もいない。当時の本を紐解いてみると「自由を謳歌する職業、フリーター!」なんてコピーが目立つので、フリーターのイメージは当時にしてそう悪くはなかったのかもしれないけど、現代人である私が読んでも、本作に登場するフリーターには全くマイナスイメージが沸いてこない。
―まあ、作中に登場するフリーターやそれらしき人々は金銭的には恵まれているので、いわゆるステレオタイプのフリーターとは違うんですけどね。―
それでも、驚くほどに清々しい。作中の人物たちは毎日楽しそ~に生きています。今それは、社会学者である古市憲寿が『絶望の国の幸福な若者たち』で語った以下のような文章に要因を求められるのかもしれません。
『今日よりも明日がよくならない』と思う時、人は『今が幸せ』と答えるのである。これで高度成長期やバブル期に、若者の生活満足度が低かった理由が説明できる。彼らは、『今日よりも明日がよくなる』と信じることができた。自分の生活もどんどんよくなっていくという希望があった。だからこそ、『今は不幸』だけど、いつか幸せになるという『『希望』を持つことができた。
古市氏の著作が発表されたのは2011年9月、その頃に比べると全体としての自殺率は低下していますが実は、10~20代の若者の自殺率はそんなに変わっていません。
一方、『スティル・ライフ』の発売された平成元年は、ちょうど全体としての自殺率(年齢別のデータが手元にないので、いずれ更新します! が、当時全体としては現在の50%程度の数値ですので、相対的に見て低いことは間違いないかと)が、減少している頃だったのですね。
つまり、当時のフリーターは少なくとも今よりは希望があったということです。
そういうことを、『スティル・ライフ』を読んでつらつらと考えてしまいました。
まとめ
ただ、池澤さんはこれから世の中が悪くなることを予見していたのではないかなとも、思えるんですね。以下、本文より引用
「でも、ぼくは徹底して地球的な、地上的な人間だよ。しばらく前までは、人はみんなぼくみたいだった」
(中略)
「一万年くらい。心が星に直結していて、そういう遠い世界と目前の狩猟的現実が精神の中で併存していた」
「今は?」
「今は、どちらもない。あるのは中間距離だけ。近接作用も遠隔作用もなくて、ただ曖昧な、中途半端な、偽の現実だけ」
「しかし、それでも楽に生きていけるように、人はそのための現実を作ったんだよ。安全な外界を営々と築いたのさ。さっきも言ったように、きみの方が今では特別な人間なんだ」
「知ってるよ」
皆さん、どう思われますか?
それでは